広島大学医歯薬保健学研究院地域医療システム学 竹内 啓祐 教授,松本 正俊 准教授

広島大学医歯薬保健学研究院地域医療システム学講座 教授
竹内 啓祐 先生
プロフィール
広島県出身
- 1980年
- 自治医科大学卒業
- 1980年
- 県立広島病院にて研修、以降一貫して広島県職員として中山間地域医療に従事
- 2003年
- 県立神石三和病院院長
- 2006年
- 県立広島病院総合診療科主任部長
- 2010年より現職

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広島大学医歯薬保健学研究院地域医療システム学講座 准教授
松本 正俊 先生
プロフィール
広島県出身
- 1996年
- 広島大学医学部卒業
- 1996年
- 天理よろづ相談所病院 初期研修医
- 1998年
- 自治医科大学(地域医療学) 後期研修医
- 1999年
- 藤橋村国民健康保険直営診療所 所長
- 2001年
-
自治医科大学附属病院総合診療部 病院助手
- 2005年
- オックスフォード大学人類学大学院卒業
- 2005年
- 自治医科大学地域医療学センター(総合診療部) 助手,07年より講師
- 2010年より現職
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広島大学「ふるさと枠」第1期生 と教員との座談会
広島県の地域医療を担う医師を育成することを目的に、2009年度からスタートした広島大学医学部の「ふるさと枠」。2010年度には県の寄附講座として「地域医療システム学講座」も設置されました。「ふるさと枠」の第1期生5名は2015年3月に医学部を卒業し、現在は研修医1年目として奮闘しています。
【ふるさと枠等制度】
卒業後に広島県内で医療に従事する強い意思のある者を選抜し奨学金を貸与。臨床研修含め9年間(3年間の猶予)の県内勤務,うち4年間を中山間地域等で勤務すると返還が免除される。
どのような思いで「ふるさと枠」に挑戦しましたか。




小畠先生:高校時代、自分の周りには医学部を目指す友人がいなかったので、あまり情報がなかったのですが、地域に根ざした“町のお医者さん”という医師像が私にとって身近なものだったので、「ふるさと枠」にも合致すると思いました。
板倉先生:私はもともと数学の教員や理学療法士に興味があったので、友達から「ふるさと枠」の制度について聞くまでは、医師になろうと考えたこともありませんでした。この制度がなかったら医師にはなってなかったと思います。
唐口先生:私も最初から医師になりたいという強い思いがあったわけではなく、薬剤師などのコメディカルを幅広く考えていました。「ふるさと枠」のことを知って初めて、「医師になろう」という明確な目標を持つことができました。
宮本先生:高校生の頃は、医師=内科医というイメージでした。中山間地域など、医師不足の田舎で働くのもいいかなあと、漠然としたイメージですが、思い描いていました。
「ふるさと枠」のプログラムについて、教えてください。

竹内教授:「ふるさと枠」の学生も、普段は一般の医学生と同じカリキュラムで学びます。特徴的なのは、夏休みや春休みなどの長期休暇中に実施する「地域医療セミナー」です。これは中山間地域などの医療機関を訪問して現場を肌で感じたり、合同合宿を行ってグループワークに取り組んだりするものです。また毎週水曜日の昼休みにも集まり、実技の練習などを行っています。
小畠先生:「地域医療セミナー」は「ふるさと枠」でしかできない経験ですし、自治医科大学の学生とも交流することができ、毎回とても刺激になりましたね。さまざまな地域や診療所へ行ったからこそ、学べたことがたくさんありました。
板倉先生:1年の時は、ほとんど何の知識もない状態でセミナーに参加してしまい、自治医科大学の先輩にも、診療所の方々にもご迷惑をおかけしたのではないかと思います。でも何度か通っているうちに「成長したね」と言ってもらえて、嬉しかったことを覚えています。
唐口先生:そのように、地域医療に従事している医師や現場の方々とつながりをもてたことを、この先、自分たちが地域に出て行った時にも生かすことができるといいですね。
宮本先生:そうですね。自分が行った地域のことだけでなく、他の学生が行った地域の情報も共有できるのも良かったと思います。「ふるさと枠」では、一般の学生よりも学べる機会が多く、環境も整っているように感じます。
松本准教授:ここにいる第1期生のみなさんは、ゼロからのスタートでしたから、我々教員と一緒に悩んだり喜んだりしながら制度を作ってきました。6年経った今、ようやく制度として成熟味が出てきたし、大学の中にも浸透してきたのではないでしょうか。みなさんが作ってくれたレールの大切さを実感しています。
入学した当初と、卒業した今とでは、何か変化がありますか?

小畠先生:当初は「ふるさと枠」は一般の医学生に比べて地域で働く年数が長くなるのではないか、最先端の医療に触れにくくなるのではないかと懸念もありました。でも実際は「地域医療」という枠の中でもできることはたくさんあるし、今後のキャリアプランも、一般の医学生と大きな違いはないと思っています。9年という義務年限と、自分の希望する方向性とに折り合いをつけながら、進路を模索したいですね。
板倉先生:医学生の頃も今も「人の役に立ちたい」という思いは変わらないのですが、研修医になるといろいろな可能性も見え、私が目指したい医師像も、少しずつ具体的になってきたように思います。私の出身地も医師不足が問題になっています。早く力をつけて、地元に貢献できる医師になりたいという思いが強くなりました。
唐口先生:私は大学病院ではなく、地域医療が理想だと思っていたので、将来は地域医療でがんばろうと決めていました。けれど医学部でいろいろと学び、大学病院でも人々のために医療に向き合い、研究しているんだということを目の当たりにしました。以前の自分は、自分で可能性を狭めていたんですよね。今は選択肢が増え可能性が広がったことで、逆に具体的な医師像を描けていないのですが、これからじっくりと考えていきたいと思います。
宮本先生:研修医になって、より現実味を持って感じているのは、総合医として田舎の診療所でやっていくのは、本当にすごいことなんだなということです。よくDr.ジェネラルとも言われますが、そんな総合医としての力を身につけていくことの難しさを再認識し、身の引き締まる思いでいます。
竹内教授:すごく頼もしいですね。みなさんは第1期生として、何もないところにレールを敷いて道を切り開いていかなければならなかったわけです。とても大変だったと思うのですが、きちんと正面から受けとめて後輩たちのためにレールを築いてくれました。今後、地域医療を志すとしても、専門に進むとしても、みなさんが“総合医マインドを持った医師”に成長してくれていることが、とても嬉しいです。
松本准教授:第1期生として大学からも世間からも注目され、プレッシャーもあったと思います。しかし、こうしてみなさんの話を聞いて、しっかりとした考え方を持った先生になられたことを知り、「ふるさと枠」がとてもいい制度になったと感じます。
研修医の先生方の今後について、どのようにお考えでしょうか。

小畠先生:私は将来的には、循環器内科の専門医を取るつもりでいます。そして地域に行って、循環器内科医としてできることをやっていきたいと考えています。まだまだ道のりは長いのですが、私たち一人ひとりが、それぞれの立場で、いかに地域で活躍できる医師になれるか、今後が楽しみでもあります。
板倉先生:研修医になって1年近く経ちますが、分からないことだらけで毎日必死です。「地域医療セミナー」で素晴らしい先生にたくさんお会いしたので、あんなこともこんなこともやりたいという欲張りな気持ちがあるのですが、今はまず小さなことから確実にできるように、一段ずつ階段を登っていくしかないと思っています。そして「ふるさと枠」の後輩たちに私たちの経験をフィードバックするなど、お世話になった先生方に恩返しできるようになりたいですね。
唐口先生:9年間の義務年限を終えた後は、地元である東広島市で勤務したいと考えています。再開発が進み、県内でも数少ない人口の増えている街なので、そういう地域で役立つスキルを身につけていきたいと思っています。
宮本先生:今は研修医として大学病院にいるので、いろいろな先生にすぐに相談することができます。ですがその環境に甘えず、まずは自分なりに考える能力が必要だと感じています。今後どの専門に進むにしても、どの領域もある程度は診られるようにならなければと思います。それが結果的に、地域医療につながっていくのかもしれません。
松本准教授:どんな人であっても、やりたいことを全部やるのは難しいことです。やりたいことと、やらなければならないことの折り合いをつけながら、進路を選択していってもらいたいですね。そして広島県に貢献できる医師になり、同時に自己実現を目指す。そのバランスがうまく取れるよう、私たちもバックアップしていきます。
竹内教授:医学はどの専門を選んでも興味が尽きないものですし、選択肢が広がるとそれだけ悩むことも増えると思います。医学部での6年間、そして義務年限中にも育まれていく“総合医マインド”をしっかりと持ちつつ、みなさんがやりたいと思える道を、後悔のないように進んで欲しいと願っています。そしてこれからも、「ふるさと枠」の後輩たちに、アドバイスをしてあげてくださいね。
(2015年12月)